メロディーを歌う
2021/01/27
メロディーを曲にする「方法」があることは前回までに書きました。では、どうやってメロディーを作るのか? それには直接的な方法はないでしょう。もしあったらその曲は私が作ったのではなく、その「方法」が作った曲になってしまいますから。
だからここでは、メロディーの作り方ではなく、私がメロディーを作るために何をしているのかを書いてみます。
子供のころ「メロディー」という言葉の意味が分かりませんでした。それは私が小さいころからオーケストラの曲を聴くことが多かったからだと思います。別に音楽一家というわけではありませんが、当時は高級品であったLPプレーヤーで父親や叔父がベートーベン、チャイコフスキー、ドボルザークなどの交響曲をかけていて、あまり意識することなく私も聞いていました。
交響曲は多くの音が入り混じり、お互いに主張しあうので「これがメロディーです」というはっきりした一本の線があるわけではありません。そして私はそれらの音のすべてを平等に受け取っていましたから「交響曲第4番1楽章はどんなメロディー?」と聞かれたとしても「なんのこと?」答えたでしょう。
しかし「第1楽章ってどんな曲か歌ってみて」といわれたら、重なり合う音の中から一つを選び出して、歌ったことでしょう。その、歌う線、歌って伝えたくなる線、それがメロディーに違いないと気が付きました。(中学生になってからやっと気が付いたのですが。)
だからメロディーを作る最もシンプルな方法は、声を出して歌ってしまうことだと思います。Oh! Italia と A Song of the Sea は、実際に声を出して歌ってメロディーを作りました。しかし、ただ歌おうと思っただけでは歌えません。そこにはちょっとした「方法」があります。
まず、何について歌うのか? 歌詞があるんだったら簡単です。しかしギター曲には歌詞がありませんし、残念ながら私にはいい歌詞が作れそうもありません。そこで気が付いたのが、歌詞の代わりに目に見えるような風景を決めることです。Oh! Italia の場合はベニスの町の風景です。
2番目には、歌う「私」の姿を決めました。それも情景の一つです。私は恰幅の良いイタリアのテノール歌手になったつもりで歌います。
そして3番目。聴衆に何を伝えるのか? この曲の場合は「魅力たっぷりの町ベネチア」 です。これがこの曲のテーマです。
本当にその気持ちになると歌は自然と出てきます。歌詞は? あればそれに越したことはありませんが ”タンターラーラーラー”で十分です。
この「方法」の要点は、できるだけリアルに情景を作りだし、それになりきることです。裏を返せば、作曲とはこの情景を作り出すことなのでしょう。
頼りない方法ですから、これで必ずできるとは限りません。運が良ければできる程度です。できなければまた別の日にやってみるか、別のテーマでやってみるかです。
同じ方法でメロディーを作ったのが A Song of the Sea です。誰もいないのに静かに波を寄せ続ける海がテーマです。心はただ静かに、自分を見つめます。今度の「私」は落ち着いたアルト歌手です。誰もいない浜辺で一人で静かに歌います。聴衆は海です。海は何も言わず、寄せる波で応えるだけです。それでも歌い続けます。メロディーが何もない小節がありますが、それは海が奏でているところです。
こんな方法を書いておきながら、実際に声を出して作ったメロディーはこの2曲だけです。それはもっと簡単な作曲方法を見つけたからなのですが、それでもこの方法は良い方法だと思います。声は心だからです。楽器の音と違い、声はたった一音であっても必ずそこに感情があります。そして感情のこもった声を出すと、それに引っ張られてさらに感情が生まれてきます。本当は今でもこの方法で作った方がいいのかもしれません。
さて、ではその「もっと簡単な方法」とは何か? 大した方法ではないのですが、次の項目として書いていこうと思います。
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