テーマを削り出す
2022/01/02
だれもがそうではないと思いますが、私の場合テーマがないと曲が作れません。しかし、良いテーマを見つけ出すのが簡単とは限りません。私にとって作曲で最も難しいのは、作曲に適したテーマを見つけ出すことです。
ここでは、どうやってテーマを見つけているのか、どうしてテーマがないと作曲できないのかを書いてみます。
以前「ギターで歌う」で書きましたが、Sunflower Hill の曲のように写真を見るといきなり作曲が力強く進むのはややラッキーな場合です。自分が何を作りたいのか分からず、さまようことも多いです。
テーマは好きに決めればいいというわけにはいきません。たとえば「風を受けて走るヨット」は爽快そうですが、それをテーマにしようとしてもクラシックギターの曲が作れそうな気がしません。作曲のためには「曲にできそうなテーマ」という制約があり、その方が「自分が書きたいテーマ」よりも厳しい条件です。だからテーマよりも先に「曲にできそうなフレーズ」を探すことも多いです。
そういう場合、ソファーに座ってギターで何かしらのフレーズを鳴らしてみます。テーマは決まってなくても、なにがしかの気分であったり季節感であったりを決めて、それっぽい音を出してみます。以下は今ためしに鳴らしてみたものです。音を探しながら弾いているのでつっかえつっかえで聞きにくいと思いますが、私の作曲の始めはこんな感じです。
プロのミュージシャンのように、ちゃんとした音楽を即興では弾けません。でも作曲のきっかけとしてはこれで十分です😊
では、このようなあいまいなフレーズからスタートしてちゃんとした一曲にできるのか? このさきもフレーズをつなげていけば、何がしかの曲にはなるでしょう。しかし実際にはそれでうまくいったことがありません。
今ここにあるのは「気分」と「音」だけで、「テーマ」がないからです。テーマが決まっていないと、自分が出した音が果たしてそれでいいのかどうかがわからない。それで続けられなくなってしまうのです。
しかしこのようなテーマのない音から、逆にテーマを思いつくことはできます。Coffee Song の場合、どのようにテーマが決まっていったか。始まりは「落ち着いた気分」の曲を作ろうと思い、次のフレーズを鳴らしていました。
落ち着いた気分
そしてこの後にいくつかのフレーズを続けて弾いていたのですが、そのどれがいいのか決められませんでした。そのように複数の選択肢を残したままさらに次のフレーズを弾いてしまうとさらに選択肢が増えていき、迷子になってしまいます。
しかし、自分の出した音を何度も聞いていたら、旅行先で入ったある喫茶店とコーヒーの香りを思い出すようになりました。そこでこの曲のテーマを「あの喫茶店」の「あのコーヒーの香り」と具体的にすると、いくつか弾いていたもののうち、続きのフレーズとしてこれがいいと決まりました。
旅先で入った落ち着いた照明の喫茶店
しかし続けて弾いてみると、これはコーヒーを飲んでいる最中に聞くには少し主張が強すぎる音で、本当にこれでいいのかとまた悩んでしまいます。そこでこの曲の目的を「コーヒーを飲む前の準備の曲」ということにし、肩の力を抜くフレーズに続いてコーヒーの香りへの期待を高めるフレーズをつなげて、なんとか一曲の形になりました。このように、テーマがはっきりした時にどういう音のフレーズが欲しいかがはっきりします。
さて、こうやってできたこの曲が、聞く人にとっていい曲なのかどうか私にはわかりません。しかし何を作ろうとしたのかを私自身が知っているということは、作る側の私にとっては意味のあることです。そして自分が作りたくて、しかも実際に曲にできるテーマは簡単に見つかるとは限らず、丸太からまだ見ぬ像を削り出すように探し出していかないといけません。
逆に、先にテーマを決めてもテーマにあった音が見つからないことも良くあります。そういうときはテーマを広げることで曲を作れるようになることが多いです。Bougainvillea の曲は、その名の通り最初のテーマはブーゲンビレアの花でした。しかしそれではなかなか曲にならなかったものが、「サントリーニ、明るさとくつろぎ、そしてブーゲンビレアの島」とテーマを広げ、島の雰囲気丸ごとを表現することにしたら曲になりました。
もう一つ私が必ずやっていることとして写真探しがあります。言葉として認識したテーマをさらに具体的にするのには、そのテーマをよく表現できる写真があるとよいです。写真を見ながら作曲を進めることで、音がテーマから離れていってしまうのを止めることができるからです。だから私は、テーマ探し、音探し、写真探しの3つを繰り返しながら曲を作ることが多いです。
さて、具体的なテーマがないと作曲できないのか? それは人によって異なると思います。クラシックギターの曲によくある題名として「メヌエット」や「ワルツ」がありますが、それはダンスの種類を示しただけです。「ハバネラ」もリズムを表しているだけです。多くの作曲家は私のように具体的なテーマを必要としていないのかもしれません。
そして私もいつかテーマがネタ切れになるかもしれません。そのときは単に「ワルツ」や「ハバネラ」を作るかもしれません。あるいは作曲をやめてしまうかもしれません。でもいまはとりあえず悩みながらテーマを見つけることを楽しもうと思います。
私の作曲では、テーマ探し、音探し、写真探しが大事と書きましたが、次の記事では写真のことについて書いてみたいと思います。
「ティレニアの海岸」の作成過程では、テーマを探し、テーマが決まると作曲が進む様子が描かれています。そちらの方がよい例かもしれません。
Photo by Nati Melnychuk on Unsplash