自分の構造を持つ
2024/12/18
小学校の音楽の授業で、曲には構造があることを習いました。例えば AABB や ABA などです。習った時には何の意味があるのかわからなかったこの知識は、結局私の作曲を発展させました。
曲には構造があるという知識はいったいどう生かせばいいのか? 作曲を始めた時点では全く分かりませんでした。しかし私の作品番号1の Oh! Italia の作曲で早速それは効果を出しました。
Oh! Italia; Phrase ‘A’
最初のフレーズとしてここまでを作りました。このままだと曲が終わった感じはしないですが、ちょっと工夫して終わらせることができたかもしれません。しかしここで小学校で習った構造のことを思い出したのです。AABB とか ABA とかです。それがどちらであれ、B がないといけないのかな? と思いました。ここまでだって苦労して作ったわけです。もう一苦労しないといけないのは大変です。でもこの知識が B を作る努力をさせ、その結果として次のフレーズができました。
Oh! Italia; Phrase ‘B’
作曲は自由な行為ですから、マラソンと違って 42.195km 先にゴールがあると決められているわけではありません。どこで努力をやめればいいのかが決まっていないのです。しかし小学校で習ったこの知識が「まだ止まるな、ゴールは先だ」と私の尻を叩いてくれ、結果としてよりいい曲になったと思います。
(この曲は楽譜上は繰り返しがあって AABB’AB’ という構造なのですが、YouTube に上げた私の演奏では ABB’ で終わっています。それは当時の私の演奏技量ではそんなに長く間違えずに弾けなかったからです。)
このように曲の構造には意味があると思うようになりましたが、AABB や ABA などは西洋音楽の構造だと思いました。なぜなら、日本にもとからある曲は A が2回出てくるという繰り返しがないからです。私は日本で育ちましたから日本ならではの構造はないだろうかと考え「起承転結」を思いつきました。
これは本来は中国の詩の構造ですが、日本では小説や演劇、漫画などで使われている構造です。これを強く意識して作った曲が Garden of Plum Blossom で、曲のテーマも東洋の花です。起承転結の各フレーズは以下になります。
Garden of Plum Blossom; Phrase ‘起’
Garden of Plum Blossom; Phrase ‘承’
Garden of Plum Blossom; Phrase ‘転’
Garden of Plum Blossom; Phrase ‘結’
この構成で作ると曲全体に広がりが感じられ、自分でも非常に気に入った曲になりました。「起承転結」という ‘構成’ を思い描いてなかったらここまで大胆な変化はつけなかったと思います。
ところで上の文章では ‘構造’ と書かずに ‘構成’ と書きました。AABB などの構造は、AとBそれぞれががどうであるべきという意味がありません。しかし起承転結では一つひとつに曲の中での役割があります。だから「単にそうなっている」というニュアンスの ‘構造’ よりも、「そうしたかったのだ」というニュアンスの ‘構成’ の方が合います。
このことは私が作曲を始めた最初に感じた、’作曲’ にあたる英語の言葉 ‘Compose’(直訳は ‘ 構成する’ 。語源は’一緒に置く’) に対する違和感を解きほぐしました。日本語で作曲は曲を ‘作る’ と書きます。個々のフレーズは何もないところから生み出さないといけないですから ‘作る’ ‘創る’ という言葉がぴったりです。しかし曲全体を見ればそれらのフレーズをどう ‘構成’ するか? その方がより大きな視点です。聞いて印象に残るフレーズは大事ですが、曲全体で何を表したいのか? そういうことを考えるのが作曲なのだ。そう理解すると英語の ‘Compose’ という言葉に納得がいきました。
さて、「起承転結」は構成の一つの型です。型が決まっていると丁度良い程度の制約になり作曲が進みやすくなります。しかし、それしか許さないというのでは窮屈でもあります。「起承転結」を少し変えた型として、 ’結’ の位置で ‘起’ のフレーズを一部再現させてから Coda に終結させる構成をよく使うようになりました。
この「起承転’帰’結」だとメインテーマの再現部があり、なつかしいところに戻ってきたような感覚でが出るので私は好きです。また、作らないといけないフレーズが一つ減りますので、ちょっと楽です。A Song of the Sea, Letter from Father, Rainy Days など私の多くの曲ががその構成です。
また Serene Summer Night では ‘承’ を省略して「起転帰結」としました。涼しさを損なわないように、あまり種類の違うフレーズを入れたくなかったのです。
このように構成を頭に描いて作曲をすると、思いついたフレーズが全体の中のどこに位置に来るべきかがわかります。以下は Fountain in the Forest の4つのフレーズです。
Fountain in the Forest; Phrase ‘起’
Fountain in the Forest; Phrase ‘承’
Fountain in the Forest; Phrase ‘転’
Fountain in the Forest; Phrase ‘結’
最初は上記の3フレーズ目は作られていなくて、2つめのフレーズを ‘転’ のつもりで作りました。しかしだんだん、このフレーズは ‘承’ になるべきフレーズだと思うようになり、その後新たな ‘転’ を作り、最終的に自分の納得のいく曲になりました。
小学校で習った ‘構造’ の知識は ‘構成’ への関心に広がりました。作曲を始めたころは曲全体ということに目が届いていませんでしたが、この知識のおかげで私の作曲は健全に成長したと思います。
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Photo by Issay Tsumeki