ベースで進行させる

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2024/8/4

今回の記事は、本当だったらコード進行のことを書くべきなのかもしれないのですが、それができないのでベースの話を書きます。

私の周囲にあまり作曲する人が多いわけではありませんが、そういう人たちの話を聞いているとコード進行が作曲の大きなファクターであるように感じます。コード進行に従っていれば曲は簡単に作れると言っていた人もいます。

中学の音楽の授業で I, IV, I, V, I (A major であれば A, D, A, E, A)というコード進行があることを教わったきりで、その後コード進行を勉強したことはありません。それに私は作曲の方法を自分で考えたいから、あまり勉強したくないのです。

でもこの記事を書くにあたってジャズとボサノバのコード進行を調べてみました。情けないことにコード名を見てもわからないものが多くて、すぐに断念しました。しかし、やはりなにかの決まり、あるいは基本があるように思います。アドリブが重視されているジャズやボサノバでは、コード進行と基本となる小節構成(8小節単位か12小節単位か)が決まっていないとバンド全体でまとまることができないから、そういう決まり事があるのは当然だと思います。ウッドベースとピアノが別のコード進行に従っていたり、ドラムのフィルインが悪いタイミングで入ったりしたらそれは良くないです。

しかしクラシックギターは楽譜を確定させてから演奏しますし、一人で全てを弾きますから、そういった決め事はあまり必要ありません。聞いてみて良ければそれでOKです。

さて、コード進行のことはこれくらいにして、本題に入ります。私はコード進行の知識がほとんどありませんが、それだけでなく、コードで曲の進行をさせようと思ったことがほとんどありません。では何で曲を進行させているかというと、ベースです。

私の作る曲は、小節の先頭にメロディーがないことが多いです。以下は Tyrrhenian Coast の3,4番目のフレーズです。

Tyrrhenian Coast 3rd-4th phrases

どうして1拍めにメロディーがないのかというと、先にベースの音が思い浮かんでしまうからです。自分が鳴らしたベースの音を聞くと自然とその音に合った気分になります。そして、ベースが決まれば自然とコードが決まり、その上に気分に合わせたメロディーが乗る、そういう感覚です。

この例のベースは E と A を繰り返しているだけで、その結果コードも E7 と A だけで進んでいるのだと思いますが、実際にはコードを意識していません。「コードと一緒に歌う」の記事に書いたように、ベースを弾くと自動的に左手が響きの合うフレットを押さえてくれるようになったからです。

簡単に演奏できる曲にするために、ベースはほとんど開放弦しか使いませんが、変化を生みたい場合は、意識してベースをいつもと違う音にします。以下はさっきの曲の続きです。

Tyrrhenian Coast 5th-6th phrases

この例だとベースは D,B,E,A,D,C#,B,E と頻繁に変わっています。それに従ってコードも変化しているはずなのですが、コードの知識が乏しいのでそれがどんなコードなのかよくわかっていません。ベースも開放弦でないので、自分が出したい(というか聞きたい)ベースの音を、指を一つずつずらして探しました。

次の Fountain in the Forest はまた極端な例です。

Fountain in the Forest : 五線譜 ↗️

この曲ではほとんどすべてのベースが A です。人間と関係なく水を吹き出し続ける噴水を、単調なベースで表したからです。しかしごく一部にベース D と E を入れました。これで単調な音楽の中に微妙な雰囲気の変化をいれることができました。

Shopping Street Seaside の3つ目の小曲では、意識して普通と違うことをしました。

Shopping Street Seaside – Piece 3

青でマークした音は、1,2,3 弦は A のコードを弾いているので、ベース E は音が合いません。でもそのせいでミステリアスな感じが出せていて、私の気に入っている工夫です。(録音ではベースの音が小さくしか撮れていないので残念ですが、生で聞くと深い音がいい感じなんですよ。)

テーマとしてこだわったベースの音もあります。Silver Grass – Gold Moon では優しいの秋の満月をテーマにしました。繰り返しの1回目と2回目のマークした部分の差が問題なので、ちょっと長くなりますが聞いてみてください。

Silver Grass – Gold Moon

青でマークした2回目繰り返しのベースとコードは、緑の1回目の音の方が正しいと思います。しかし、大きな月が、ボーンと空に浮かんでいる姿を音で表したくて、ここはどうしてもベースを A にしたかったのです。この音は曲の流れに素直にはまっていないように自分でも感じます。たぶん音楽理論的には間違っているのだと思いますが、それでもそうしたかったのです。

ところで今わかりましたが、この曲はほとんどの小節で1拍めがベースのみですね 🙂

このように自分がベースで曲を進行させているということは、最初は気が付いていませんでした。周りの人がコード進行の話をするので、なぜ私はコード進行を知らずに作曲しているのかを考えて気が付いたのです。

あとから気が付いたのだから、それを知識として認識しなくても作曲はできます。でも、これを意識するようになってから、ベースに工夫を入れてみようという気持ちが出てきました。コードと違って難しい勉強もいらないので私にぴったりの方法です。しかし、ベースを動かすと演奏が難しい曲になってしまうので、どうしても変化が欲しいところだけにしています。


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