調を決める
2026/3/11

ここまでに、曲を作り始めるには気分が必要で、気分はテンポ、リズム、リズムの揺動に現れると書きました。
しかし最初の一音が出ない限り作曲は始まりません。そして、実際にギターの上でその最初の音を出し始めるには調が決まっていることが必要です。
テンポ、リズム、調を比較した場合、だれでもテンポの速い、遅いはわかります。また、特別な音楽教育を受けたわけではない私でもリズムはわかりやすいものです。ワルツのリズムであれば自然に体が左右に揺れますし、ハバネラのリズムであればのんびりした気分になります。だからどのような気分ならどのテンポとリズムを選ぶかは自然と決まりやすいです。
しかし絶対音感のない私には調は分かりにくい要素です。交響曲の題名では “Symphony No.4 B flat major” のように必ず調の名前が書いてありますが、私は音を聞いても何調かがわかりません。
ところが自分が作曲するとなると話が変わります。ここまでに書いたように、ギターで気分を音にしてみるわけですが、調が決まっていないと最初の音が出せません。
以下は以前紹介した曲の断片です。どんな曲を作るのか決めていないのに最初の音を力強く弾けるのは、調を A major と決めているからです。
楽しい気分になっての即興
この例では最初のコードを弾いた後に、どんなメロディーにしようか迷っているのがわかります。でも調は決まっています。
ではどの調がいいのか。それはもちろんそれぞれの作曲家が選ぶものですが、私が調を選択する際の決定要因は以下の4つです。
- 演奏の簡単さ
- 曲と調の相性
- 特定の音
- とにかくその音で弾き始めてしまった事実
私はほとんど長調の曲しか作らないので、以下、私が長調の調をどう選ぶかについて書きます。
1. 演奏の簡単さについて:
これは A か D か E の major が簡単です。それは重要なコード I, IV, V のベース音をほとんど開放弦だけで弾けるからです。
- A major : I=A(5弦開放)、IV=D(4弦開放)、V=E(6弦開放)
- D major: I=D(4弦開放)、IV=G(非開放)、V=A(5弦開放)
- E major: I=E(6弦開放)、IV=A(5弦開放)、V=B(非開放)
特に A major では I, IV, V すべてのベースを開放弦で弾けるので演奏が簡単です。また、私の場合 D major も弾きやすいです。それは私が IV のコードよりも V の方をよく使うからです。しかし IV を多用するなら E major の方が楽かもしれません。
「作曲について」に書きましたが、私は標準のチューニングでしか作曲しないので、D major の曲であっても6弦は E のままです。
2. 曲と調との相性について:
以下は私が感じている相性と、それをよく表してる曲の例です。
A major : 楽しく温かみのある曲。例)Oh! Italia
D major : 明るく軽い音の曲。例)Bougainvillea
E major : 音域が広く深みのある曲。例)Serene Summer Night
A major は私が最もよく使う調です。私の感覚としてはそれは楽しく温かい音の調です。
D major は A major より4度上なので音が明るくなります。E major はさらに一音高いのでメロディーの音がさらに輝き、また、I のベースが6弦開放という最も低い音のため曲の開始や終止にベースがよく響き、音域の広い曲が作れます。一方 D major では私は6弦を使うことがあまりないので、軽い音の曲になります。
もちろん実際に作る曲次第でこの通りになるわけではありませんが、いまからなにかの曲を作ろうとしているときに参考程度にはなります。
3. 特定の音を使いたいとわかっている場合について:
Serene Summer Night では、夏の夜を表現するためにできるだけ音程の離れた音で曲を始めたかったです。そのため E major を選んで、3オクターブ離れた E を鳴らしました。
In The Shade Of Trees は、その出だしを仕事の昼休みに思いついたのですが、帰宅してからできるだけ記憶に近い音を探したら E major でした。
頭の中に残っていた音が E major だった In The Shade Of Trees
4. とにかくその音で弾き始めてしまった、という場合について:
この場合は、今まで説明したことはすべて無意味です。Moon Forest の作曲では事前に調を決めずに、写真を見たら直ちに最初のフレーズを弾き始めていました。
Moon Forest. 調のことは何も考えずにいきなりこう弾いていた
この曲の楽譜 ↗では #を 2つで書いたので普通は D major か B minor かのどちらかなのですが、出だしの部分は何調なのかよくわかりません。でも、とにかくこれが弾きたかった音なので調の名前はどうでもいいです。楽譜は臨時記号が少なくなるように選んだら # が2つになりました。
このほかにも Ski Hike や The View From Ruins なども写真を見てすぐに音が出てきた曲です。
Ski Hike ; これははっきりと A major ⇒五線譜 ↗️
The View from Ruins ; # 3つだけど、何調? ⇒五線譜 ↗️
なぜこの調で弾いたのかは自分でもわかりませんし、The View from Ruins は何調なのかもわかりません。
結局のところ、いつも 4. のようにできれば最も良いと思います。調を準備しておいて音を探し出すのではなく、自分の中から(あるいは写真の中から)自然に出てきた音楽が最も作曲にのめりこめます。でも、このように調を決めずに音が出てくるようになったのは作曲に慣れてきてからのことですし、ラッキーな場合でだけです。
多くの場合、何を作ろうかがあいまいなまま、1~3 の要素を考えて、作ってみたい曲の方向性に合わせて調を選んで、そしてとにかく最初の一音を出してみます。例えば「弾くのが簡単で楽しい感じの曲を作ろうかな」程度に思っているなら A major と決めてギターを鳴らしてみます。「コードと一緒に歌う」で紹介した A major コードのうち、その時の気分に合わせた高さのものを弾いてみると気分が乗ってきやすいです。
その調でいろいろな音を鳴らしているうちに、「あ、これはいいかも」という音が出てくることがあります。
ひとつ例を挙げておきます。Holiday at the Lake – Lake Garda の作曲例です。この日は楽しくワインを飲んだ後なので私はご機嫌でした。また、以前楽しいワルツを作ろうと思って作り始めた Waltz of La Seine が結局センチメンタルな曲になったのが気になっていたので「素直に明るく、気軽に弾けるワルツ」を作りたくなりました。そこで調として A major を選び、音が高めだが落ち着きもある5フレットセーハのAのコードをとにかく鳴らし、そのあとでメロディーを探しながら弾きました。ファイル名にその時の気持ちが残っています。 🙂
ファイル名「今度こそ素直に明るいワルツ.mp3」
おっと、妻が食器を片付けてくれる音が聞こえますね。この日は私は酔っ払いなので役立たずです。
そのあと、この音に合う景色を YouTube で探してガルダ湖を見つけました。湖での休日の気軽で楽しい雰囲気に合わせて作り直したのが Holiday at the Lake – Lake Garda です。
⇒Holiday at the Lake – Lake Garda: 五線譜 ↗️
作曲をするには最初の一音を出すのが大事です。実際の音が聞こえると作曲したい気持ちがぐっと高まるからです。
調が決まっていると最初の一音が出しやすく、リズムが決まっていると続く音が出て来やすいです。調とリズム。この2つが決まっていることで、気分が具体的な音となって出てきやすくなります。気分はあくまで気分で、曲は具体的な音からできているので、とにかく実際の音を出す必要があります。
Lake Garda の場合は最初の一音から順調に作曲を進められましたが、うまくいかず途中でやめてしまうことも多いです。しかし中止した演奏ものちになんらかの曲になることがあるので録音して取っておいてあります。そういう録音の再利用例が「スペイン広場 – 作曲過程」の記事にあります。
Photo by Marco Ghirello on Unsplash