気分を歌う
2024/2/3
前回の記事では、曲を作るよりも先に、まず曲の気分をつかむ必要があると書きました。では気分が定まってきた時、その気分は結果として出来上がった曲のどこに現れるのか?
前回の記事で、伴奏には曲を作る気分を引き出す力があり、その気分が曲を作らせていると書きましたが、前奏にも同じ力があります。以下は New Year’s Delight の前奏です。これは私を落ち着いた明るい気分にするのにぴったりでした。
しかし、この前奏にはオリジナリティーがありません。「この曲」を特定しているのはやはりメロディーです。だからつかんだ気分はメロディーとして現れないと価値がありません。
ここでちょっと、メロディーは何と何からできているのかを考えたいです。私はメロディーのもっとも大切なところは音程の変化だと思っていました。ところが実際に曲を作って気が付いたのですが、多くの場合メロディーは音階上を1音かせいぜい2音上下しているだけなのです。
以下はさっきの前奏に続く最初のフレーズですが、メロディーのすべての音は前の音の1音上か下、あるいは同じ音程しかありません。しかしこのフレーズは、お正月の私の気分ちをよく表しています。
このように音階上を上下に移動するだけでメロディーになってしまうということは、音階は優れたメロディー生成システムだということです。
しかし単純に音階だけを弾いたのでは曲になりません。
これではまったく曲ではありません。でも、以下を聞いてみてください。
すぐに何の曲かわかるでしょう。(続きを歌いたくなりますよね。)
このフレーズの音程はさっきの下降音階と全く同じです。基本のリズムも4拍子で同じです。それなのに単なる音階とはちがい、この曲には晴れがましさがあります。こんなにも違うのに、その原因はメロディーの音の長さの変化にしかありません。
基本のリズムである4拍子は曲の最後まで同じパターンを繰り返しますが、メロディーの音の長さの変化は1小節ごとに異なりますので、同じパターンを繰り返す「リズム」とは違うものだと思います。これを音楽用語で何というの知らないのですが、ここでは「リズムの揺動」と呼ぶことにします。
そうすると、メロディーは何と何とでできているのか? の答えは、「音程の変化とリズムの揺動でできている」ということになります。そして、揺動はパターン化できないほどいろいろありますから、デフォルメした言い方をすれば「ちょっとずつしか変化しない音程と、多様ななリズムの揺動でできている」とも言えます。これは私が最初に思っていた「メロディーとは音程の変化である」とはずいぶん違います。
さて、メロディーは何からできているかの話から、本題に戻ります。気分は曲のどこに現われるのか? でした。以下は試しにいろいろな気分になって即興で弾いてみたものです。音を探しながら弾いているので、とても曲とは言えないものですが、聞き比べてみてください。
これらのフレーズは後の記事の「テーマを削り出す」でも出てきますが、そちらの方が先に書いた記事です。
これらを聞き比べてみると、まずテンポが違います。それは雰囲気の違いを表す最大の要素です。しかし、この違いはあまり理屈で考えなくても自然なことだと思えるので放っておきましょう。私が気が付いたのは、違いが音程より揺動の方に現れるという点です。
このことに気が付いてから、こんなメロディーでもいいんだと思うようになりました。以下は Tyrrhenian Coast の冒頭です。最初の一小節の間、音程は全く変わっていませんし、その後も1音ずつしか変化しません。しかしこれで春の海の気分を表せていると思います。
リズム揺動が重要なメロディーの要素だと気が付いたのは New Year’s Delight を作曲した時でした。曲の途中で気分を変えたくなっていろいろなメロディーを試したのですが、リズム揺動を変えたものがぴったりしました。テンポは変えていないのに曲の気分を変えることが出来たのは、私にとって発見でした。21小節目と29小節目の2回変えています。
21小節目の変化は自然に出てきたのですが、29小節目の変化は苦労して見つけました。ちがったリズムの揺動を探し出すのも作曲の楽しさの一つとなりました。
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