コードと一緒に歌う

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2023/03/08

前の記事では、いつのまにか最初からギターで作曲できるようになったと書きました。それには、とにかくギターを抱えて曲を作る時間をたくさん取るのが一番なのですが、その結果として実際に私は何を身に着けたのか?

こうじゃないか? と思うことを書いてみます。

ギターのもっともポピュラーな楽しみ方は弾き語りです。コードとリズムをギターで弾いて、メロディーと歌詞は歌声に任せるという方法です。だからギターの楽譜を見るとコード名とストロークが書いてあり、ふつうはすべての弦をいっぺんに鳴らします。しかしこの方法はメロディーを演奏するのには向いていません。

一方クラシックギターは、メロディー、ハーモニー、ベース、リズムを一つの楽器で全てこなします。だから最初からギターで作曲するということはこれらをいっぺんに作れるのか? という問題です。それぞれについて考えてみます。

最初はメロディーです。メロディーの基本はリズムと音階です。リズムに乗りながら音階を上下すれば、何を表現したのかは別として、なんとなくメロディーっぽいものができます。以下は「カフェでランチ」の一部です。

メロディーだけ弾きました

メロディーだけだと何ともつまらない演奏ですね。これを「メロディーを曲にする」で書いたように、メロディー、ハーモニー、ベースと順に作っていくのではなく、最初からギター上でこう作れるか? です。

全部弾くとこうです

もっとも、こんなに整った形で作れる必要はありません。それは後でやればいいのですが、でもどんな曲を作りたいのか? をつかむのに、メロディーだけの演奏では足りません。それは上の二つの演奏を比べればわかると思います。

しかし、話をメロディーだけに絞って考えると、その特徴は音が上下に動くということです。それはつまり左手も指板上を上下に移動するということです。

これに対してベースは、私の場合ほとんど開放弦しか使いません。この例では5絃開放(A)と6弦開放(E)だけです。こうすることによって、メロディーのために左手が上下移動してもベースは常に簡単に弾けます。このように、私にとってはベースとメロディーは両立します。

もう一つの要素がハーモニーです。これはベースに合わせたコードを弾けばよいのですが、コードブックに載っているフィンガリングは低いポジションで弾くためのものです。メロディーのために手が高いポジションに移動したときには弾くことができません。「メロディーを曲にする」で書いたようにメロディーの3度下の音を鳴らしていたのは、メロディーと同じポジションでハーモニーを作れるからです。

しかしそうやって3度下を基本に考えながら響きの良い音を探しているうちに、各ポジションでのコードを1,2,3 弦だけで弾くことを覚えました。

私は A major の曲を多く作りますが、その場合最も大事なコードは A と E7 です。以下は A と E7 のコードをいろいろなポジションで弾いたものです。

このように複数のポジションでのコードを覚えておけば、メロディーを弾きたい位置でコードが弾けます。4,5,6弦はベースのために開けておきます。メロディーはコードの音をできるだけ残しながら弾きます。例えば、

この場合、A と E7 2種類のコードだけを使っています。2,3弦の音をコードとして残しながら、1弦はリズムに乗ってメロディーを弾くために移動しています。

A major の曲の場合、DやEも使います。

これらを見ると、1-3 弦の小さいセーハを多用していることがわかります。譜の中で ( ) でくくったところは、セーハにする必要がないのですが、私はセーハで弾いていることのほうが多いです。同じポジションで別のコードに移る際わずかな指の移動で済みますし、次のポジションのコードに移る場合でも人差し指をスライドさせるだけでよいからです。

この弾き方を覚えたことで、メロディーとハーモニーが両立するようになりました。また、ギターの大変魅力的な奏法、アルペジオでも1,2,3 弦で作るコードは役立ちます。

残念ながら A major でない曲ではちょっとうまくいきません。E major の曲でよく使うのは、E, B7, A です。D major の場合は D,A7,G で、ベース B や G は開放弦では無理です。そういうところはどうしようもありませんが、そこだけなんとか頑張って全セーハをしたり、指を伸ばしたりしています。

では、私は何を身に着けたのか? まず、各ポジションでのコードの押さえ方を覚えました。また、ベースに合わせたコードを考えずに弾けるようになりました。そしてポジションからポジションへ移動しながらコードを切り替えることに手が慣れました。そのせいでメロディーに合わせて勝手にコードが付いてくるようになりました。

これは「メロディーを曲にする」で書いた、3度下の音をハーモニーとして付けるのと少し違うように感じています。3度下に音を付けるのはメロディーの音をリッチにするため、つまりメロディーの付属物と感じます。だからビブラートをかける際には両方の音をビブラートさせます。一方、ポジションを変えても所望のコードを弾こうとするのはあくまでコードの演奏で、メロディーの一部ではないように感じます。これはつまり、あたらしい作曲のしかたを覚えたということです。

私はこの方法で、メロディー、コード、ベースと分けて作らず、いっぺんにギター上で作曲できるようになったのではないかと思います。

ただ、これだけではイメージした曲をいっぺんに演奏できるようになったということだけしか語れていません。では、どうして曲が生まれやすくなったか? この答えはもっとあいまいですが、そのうちそれにもこたえてみようと思います。

最後に「カフェでランチ」の全曲演奏を置いておきます。私のお気に入りの曲です。

Lunch at Café : 五線譜↗️


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Photo by Engin Akyurt on Pixabay