写真で作曲する
2022/06/29

今までの記事でも写真のことに少しずつ触れていますが、写真は私の作曲の重要な要素です。
結局私は、テーマ探し、音探し、写真探しの3つを繰り返すことで作曲しています。
ここでは、私の作曲と写真の関係を書いてみます。
前の記事ではテーマを決めないと音が決まらないと書きましたが、逆にテーマを決めれば音が出てくるかというと、それはあまり出てこないことが多いです。テーマは言葉。音は感覚。この違いは大きいので直接的につながらないのです。しかし写真はこの両方をつなぐことができます。
何をテーマにしたか? それを言葉で表すのは大事です。たとえば Bougainvillea の曲のテーマは「ブーゲンビレアの咲くサントリーニ島の明るさとくつろぎ」でした。「明るさ」「くつろぎ」といった、こういう言葉は大事です。この音は明るいか? この音はくつろいだ雰囲気か? と自分で作った音を自問できるからです。しかし「サントリーニ島」は言葉が内容を表しません。
一方で、「サントリーニ」と題名が付いている写真はサントリーニ島を感じさせてくれます。つまり、言葉と感覚をつなげることができます。そして写真と音はどちらも感覚ですから、写真から音を作り出す方が、テーマから音を作るより容易です。このように写真を介することでテーマに合った音を作り出すことができます。
テーマ、音、写真。この3つがどういう順番で決まっていくかは様々です。Bougainvillea の場合は、最初のテーマはブーゲンビレアの花でしたが、その写真を探していたらサントリーニ島の写真が多く見つかって、それでテーマが島全体に広がることになりました。そしてその中でも一番のお気に入りの写真(海を渡るボートの写真です)を見ていたら最初のフレーズが出てきました。つまり、初期テーマ→写真探し→テーマ変更→最初の「明るい」フレーズ→別の写真→次の「くつろいだ」フレーズ→全体の構成、という順です。
テーマを決めずとも、印象的な写真を見た瞬間にいきなりギターから音が生まれて最初のフレーズができることがあります。Ski Hike はそういう曲です。ビデオのタイトル写真を見たらすぐにギターから音が出てきました。その音が子供っぽかったので、スポーツとしてのスキーではなく雪山を楽しむことがテーマになり、そのあとのフレーズが決まっていきました。写真→最初のフレーズ→テーマ→他の写真→続くフレーズ、という順です。
このように、写真にはテーマと音をつなぐ力があり、その3つが混ざり合いながら曲が明確になっていきます。私が写真を必要とする第一の理由はこれです。
写真が必要な二番目の理由は曲を漂流させないためです。作曲は出だしがいい感じで始まると進みやすいのですが、調子に乗っているとテーマのことを忘れて音だけをつないでいってしまいます。写真を見ながら次のフレーズを作っていくとテーマから離れていることがすぐに感じられ、方向を修正できます。そして本当に方向性を変えたいのなら別の写真を探します。
三番目の理由は盗作に関することです。作曲に直接関係ないことかもしれませんが、このことを気にかけながら作曲するのは嫌な気分です。
私が作った曲は盗作でないのか? もちろん盗作したつもりはありません。しかし結果として似た曲がないのかというと、これはきっとあるでしょう。音程は7つしかありません。半音を入れても12個しかない。また音の長さも実際に使うのは10種類くらいしかありません。全くでたらめに音を並べても音楽にはなりませんから、意味のある選択肢はもっと少ないです。1~2小節の長さなら、おそらくすべてのフレーズはもうすでに作られているでしょう。なにしろ二千年以上の間、世界中の人が作曲をしてきたのですから。
しかし一方で、私が知っている曲はそのほんの一部でしかありません。知っている曲に似ないようにすることはできますが、知らない曲にはどうすることもできません。だから、きっとそっくりな曲はどこかにあり、その盗作だろうと言われたらどう答えればいいのか?
絵を描く人はどうでしょう? 日本の名峰富士の絵は芸術家から子供まで実に多くの日本人が描いています。自分で富士山を見て描いた絵が誰かの絵に似ていても、それは盗作ではないでしょう。しかし「富士山」ではなく「富士山の絵」を見て書いたらそれは盗作かもしれません。
絵を見て絵を描けば盗作、絵でない物を見て絵を描けば盗作ではない。だから私には写真が必要なのです。曲ではない物から曲を作るなら盗作ではないでしょう。
この理屈を世間が認めてくれるかはわかりませんが、こう考えると安心して作曲ができます。そっくりな曲があるといわれても、「それはあるでしょ。でもこれは私が作ったんですよ」です。私は新しい音楽を作りたいのでも、オリジナリティーを示したいのでもありません。ただ作曲を楽しみたいだけです。たまたま完全に同じ曲があってもなくても、私が作るときに感じた楽しみに変わりはないのです。
Photo by MustangJoe on Pixabay