構造を悩む
2022/11/13
テーマが見つかり、いい写真が見つかり、最初のフレーズが出てきたら「よし、これで1曲できるぞ」。一番わくわくするときです。
しかしそのまま最後まで作りきれるわけではありません。たいがいは一度立ち止まることになります。そこを脱出するのは曲の構造が決まった時になります。
小学校の音楽の授業で、曲には構造があることを習いました。たとえば A,A,B,B とか A,B,A などです。これを教わったとき、私にはそれが意味のあることには思えませんでした。なぜなら、構造がどうであれ楽譜に書いてある通りを歌うからです。また、歌っているときに、ああこれは A,A,B,B だから素敵だ、などと思ったこともありません。
ところが作曲をするようになると、構造は自分が決めないといけません。そして実際に曲を作り進めていくと、構造が決まっていないとフレーズを作り続けることができないことに気が付きました。
たとえば A,A,B,B という構造であれば楽譜は以下のようになります。最初のフレーズを2回演奏し、次のフレーズを2回弾きます。
(メヌエットはかならずこの構造のようです。一つのフレーズが何小節なのかはいろいろですし、A と B が同じ小節数である必要もないようです。)
次の楽譜は A,B,A という構造です。これは A,A,B,B より簡単に見えますが、作曲するのはかえって難しいです。
どちらであっても生み出さないといけないフレーズは2つなのに、なぜ A,B,A の方が難しいのか? それは A-B というフレーズのつながりが良いだけでなく、B-A という順で聞いても良くつながらないといけない、さらに A は終わりとしても成り立たないといけないからです。
いま A を作ったとして、次に B を作ろうとしたとき、A,A,B,B なら B は終わりを飾るのにふさわしくないといけません。A,B,A なら、B は曲が A に戻った時に A が印象的に聞こえるようにしたいです。だからどちらの構造かが決まらないと B として何がいいのか決まらないのです。
じゃあ、どちらかに決めてしまえばいいじゃないかというと、そうれがそう簡単にいかないところが悩みです。もし泉から水が湧き出るように私の手からいくらでも所望のフレーズが出るなら、先に構造を決めてしまってそれに合うフレーズを出せばいいです。しかし残念ながら私にはそんな能力がありません。結局 A からの流れで出てきた B を弾いてみて「さて、A に戻すとカッコいいだろうか? それとも B で終わらせた方がしっくりくるだろうか?」を考えることになります。そして一番多いケースは「どちらもしっくりこない」あるいは「こっちの構造の方がいい気がするけど、本当にそれでいいんだろうか?」です。
結局、構造をどうしようか迷いながらいくつもの B を作り、最後に構造が決まるときには曲全体がほとんど決まることになります。その過程で A も変更してみたり、さらに C に展開することを考えたりして、非常にたくさんのアイデアを試します。
– こういう苦労は作曲の楽しさです。テーマが決まらなかったり、最初のフレーズが出てこなかったりすると悶々とした日々を過ごすことになりますが、こういう試行錯誤にはとても熱中できます。
いろいろ試してみるうちに、たとえば下のような構造になることも多いです。これは2回目の A の最後だけを変更して A,B,A’ という構造にしたものです。
これだと A は B とつながりが良いものに、 A’ は終わりにふさわしいものに、と分けることができるので作りやすくなります。
Dark Window もそういうことを悩んだ末に以下のような A,A,B,B’,A,B” という形になりました。この曲の B と B’ はほとんど同じに思うかもしれませんが、私としては非常にたくさん試したうえでの結果です。
別のケースとして、構造にテーマとしての意味を持たせることもあります。Shopping Street Seaside では全く異なるメロディーを次々とつなげて、いろいろな店が並ぶお土産街を表現しました。構造はないに等しいですが、しいて書くなら A,B,C,D,A です。
⇒Shopping Street Seaside: 五線譜↗️
また Waltz of La Seine のような、とても簡単な構造にしたものもあります。 この曲は A,A’,A”,A”’ というほとんど同じフレーズの繰り返しです。常に変わっているように見えて実は変わっていない町のように、ほんの少しずつニュアンスの違うフレーズを続けてみました。
しかし特別な意味がない場合、構造にこだわる必要があるのか? メロディーやハーモニーが魅力的ならそれでいいではないか? そう、作曲は自由であっていいと思います。私も構造のために作曲したいのではありません。しかしながら、私が構造のことを考えるのはそこに私の作曲をよく導いてくれたヒントがあったからです。そのことについては次の記事で書いてみたいと思います。
Photo by Issay Tsumeki on Upsplash