色とりどりの町

2023/8/15

「あなたの見ている赤と私の見ている赤は同じ色?」

同じ赤い色のものを見ていても、脳の中で感じている「赤」がほかの人と同じかどうかは確かめようがない。この疑問は昔からある有名な疑問です。でも、同じ一人の人間がある日それまでと違うように見えたら、この疑問の答えは「同じとは言えない」になるでしょう。


今から4年前のことですが、右目の網膜の中心に水腫ができました。網膜が水腫で浮いてしまったので左目と比べ、焦点位置がずれ、小さく見え、少し暗く見えます。そしてそのせいか、左目よりも色を濃く感じるようになりました。片目だけだとそういうことなのですが、両眼で見るともっと面白いことが起こります。葉っぱの一枚一枚がつやつやとして、ふちは明るく強調されます。また、その中に咲く赤や黄色い花はとても鮮やかに見え、緑の中から浮き出ていてどこにあるのかわからなように感じられます。

文字を読むのは大変で、夕方には脳が疲れてもう目を開けられなくなります。でも、町の見え方は普通の人が感じることができない、色鮮やかな世界です。

病院では治療らしい治療はなく、治る場合は2週間くらいで自然に治るといわれましたが、さっぱり変わらず。もう一生このままなんだろうと思ってあきらめました。片目ずつならちゃんと見えていることに感謝しつつ、59年ものあいだ毎日私に映像を見せてくれた精密機械には改めて驚嘆しました。

色に敏感なので色のはっきりしたものに強く惹かれます。町は自然よりもずっと色とりどりです。そういう写真を集めて作ったのがこの曲です。なんとも無邪気な曲ですが、楽譜を見るのに脳が疲れているので難しいことは考えたくなかったのです。

医者の予想に反し、目は半年たったところで急に治ってきて、もとのように見えるようになりました。脳が疲れなくなったので、やっぱりこっちの方がいいですが、その時の見え方は面白かったです。私にとってこの曲は、そのときの記念品のようなものなのです。

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