陰翳の窓
2022-8-13
ひんやりと薄暗い室内と、それにはまったく似つかわしくないまぶしい夏の景色。あまりに違い過ぎて、そこには際立った境界が形成されている。外の世界が直接室内に入ってこないよう、いったんそれを額縁にはめ、絵画として暗い室内に取り込む。それがこの窓の役目ではないだろうか。
タイトルの写真は、熱海にある起雲閣で撮ったものだ。大正時代の財閥の別荘だが、現在は文化財として展示されている。この時代の建築は伝統的な日本建築に部分的に洋風様式を取り入れており、独特のエキゾチック感を持っている。
もともと日本建築にはこのような窓はなかった。柱と梁で構造を完成させてしまう伝統的な日本の工法では、壁はなくても成立する。南側には壁を置かず、内と外の世界を隔てないようするのが日本建築の思想だった。その時代に、色付きのガラスやカーテンに飾られた小さな窓から外をのぞくというのは随分新しい感覚であったろう。 — 南面全開放の例 —
この曲では当時の建築のように日本風の感性と洋風の音階を織り交ぜて、内外コントラストの緊張感を表現してみた。狙ったテーマを表現できたので私としては満足している。